はじめに
身近なところで「もやしに詳しい」という人に出会ったことはありますか?
おそらく、「会ったことはない」という方が多数派だと思われます。
2025年、もやし製造業が日本全国で100を切ったといわれており、その分、専門家に出会う機会も少なくなっています。
実際、当社霧島製萌の関係者は、もやし屋だと名乗った瞬間、
「もやし屋って人に初めて会った!」
「なんであんなに安く作れるの?」
「テレビでピンチだって聞くけど大丈夫?」と、質問の嵐にみまわれることもしばしば。
この記事では、そうやって寄せられた疑問を集め、一問一答形式でわかりやすく解説していきます。
Q1: 「もやしは栄養がない」って本当?
結論:栄養はあります。ただ、「ない」と言われる理由にも、ちゃんと根拠があります。
もやし屋をやっていると、この質問が一番よく飛んできます。
「安いし、水っぽいし、栄養なんてないんでしょ?」と。
正直に申し上げると、この疑いは的外れではありません。
まずは、なぜそう言われるのかから説明させてください。
なぜ「栄養がない」と言われるのか
理由は、もやしの約95%が水分だからです。
100gのもやしのうち、水分を除いた重量は、およそ4.6gしかありません。
スーパーでよく売られている200g入りの袋なら、9gほど。
親指の先くらいの量です。
これが「栄養がない」と言われる正体です。
量に対して水分が多いため、そう感じるのは無理もありません。
ただ、「量に対して少ない」ことと、「栄養素が入っていない」ことは別なのです。
実際の数字
国が出している『日本食品標準成分表(八訂)増補2023年』の数字です。
緑豆もやし(生)100gあたりの中身は、こうなっています。
| 成分 | 100gあたり |
|---|---|
| エネルギー | 15 kcal |
| 水分 | 95.4 g |
| たんぱく質 | 1.8 g |
| 脂質 | 0.1 g |
| 炭水化物 | 2.4 g |
| 食物繊維 | 1.3 g |
| カリウム | 79 mg |
| カルシウム | 9 mg |
| マグネシウム | 8 mg |
| リン | 27 mg |
| 鉄 | 0.2 mg |
| 葉酸 | 36 μg |
| ビタミンC | 7 mg |
| ビタミンK | 2 μg |
出典:文部科学省 食品成分データベース(食品番号 06291)
15kcalという数字に対して、この顔ぶれです。
親指の先ほどの中身に対して、これだけの種類が詰まっている、という見方もできます。
特に葉酸の36μgは、野菜の中では悪くない数字です。
言い換えれば、カロリーを増やさずに多様な栄養を足せるのが、もやしの優位性と考えることもできます。
ブラックマッペもやしは、少し違います
ここからは、当社が作っているもやしの話です。
もやしには品種があります。全国で最も多く流通しているのが緑豆もやし。
当社が作っているのはブラックマッペもやしで、全国の流通量では5%程度しかありません。
この2つ、成分表の数字がわずかに違います。
| 成分 | 緑豆もやし | ブラックマッペもやし |
|---|---|---|
| 水分 | 95.4 g | 94.7 g |
| 食物繊維 | 1.3 g | 1.5 g |
出典:同上(食品番号 06291 および 06289)
ブラックマッペのほうが、水分が少なく、食物繊維が多い。
差は小さく見えますが、水分が0.7ポイント少ないということは、
炒めたときに出てくる水も、その分だけ少ないということです。
当社が「炒めても水っぽくなりにくい」「日持ちしやすい」と申し上げてきたことの、
ひとつの裏づけになっていると考えています。
ただし、公平のために申し上げると、カルシウムやカリウムの量では大豆もやし(当社も生産中)が優れています。
「どのもやしが一番か」ではなく、用途で選んでいただくのが正解です。
余談:鹿児島では、話が逆になります
全国的には、ブラックマッペは「希少品種」という扱いですが、鹿児島県では、事情がまったく違います。
鹿児島で、特にご年配の方の中で「もやし」といえば、ブラックマッペのことです。
そして緑豆もやしのほうを、わざわざ「太もやし」と呼び分けます。
全国の呼び方と、ちょうど逆なんですね。
当社が鹿児島でブラックマッペを作り続けているのは、希少だからではありません。
ここではこれが「普通のもやし」だからです。
余談のようですが、もやしが地域の食文化とどう結びついているかを示す話として、
知っておいていただくと面白いかもしれません。
おまけ:豆のカラも食べられます

当社のもやしに使用しているブラックマッペという豆はアズキの一種。
豆のカラ(画像矢印)にはポリフェノールが含まれています。
通常、カラは見た目や食感のために取り除かれますが、わずかに残ることもあります。
そんなときは、あえて取り除かずに食べるのもおすすめです。
当社が作っているブラックマッペもやしについては、商品一覧ページに詳しく記載しております。
Q2: 加熱すると栄養も減りそう。水分を出さない炒め方は?
結論:加熱に工夫をすれば栄養は残せる!
意外なことに、もやしのビタミンCは熱に強い特性を持っています。
一般的な野菜のビタミンC(遊離型アスコルビン酸)は熱で分解されやすく、水に溶けやすい性質を持っています。
一方、もやしのビタミンCの多くは たんぱく質や糖と結合した形(アスコルビン酸結合体) になっており、調理しても残りやすいのがポイント。
事実、もやしを炒めたり茹でたりしても、ビタミンCの残存率が比較的高いことが食品成分分析でも示されています。
弱々しい野菜の代名詞のように扱われがちですが、ほかの野菜にはない頑丈な特性を持っているんですね。
- 炒める時間は短めに(ただし注意点あり)
- 味噌汁やスープに加える(汁ごと飲めば栄養が無駄にならない)
- お肉や魚と重ねて蒸し焼きにする
こうしたちょっとした工夫で、もやしの栄養をムダなく摂取できます。
「炒める時間を短めにするため、強火で」と言われることがありますが。
これは栄養だけを考えた場合の話で、シャキシャキ食感をキープしたい場合、
もやし屋としておすすめの加熱方法は「弱火でじっくり」となります。
もやしと加熱の関係について、詳しくは別記事で解説しています。
Q3: もやしの根っこ(ひげ)って取るべき? 取らないとどうなる?
結論:日持ちと栄養を考えるなら、切らないほうが賢明です!
✔ 根っこを切るメリット
- 見た目がすっきり
飲食店などでは、仕上がりをすっきりさせるために根っこを取り除くことが多いです。 - 食感がなめらかになる
根っこを切ると、全体的に柔らかくなり、なめらかな口当たりになる場合もあります。
✖ 根っこを切るデメリット
- ものすごく手間がかかる
飲食店ではなくご家庭で、手作業でひげ取りするとなれば、一袋取る間にもう一品作れるぐらいの時間がかかります。 - 水分が流れ出やすく、鮮度が低下する
根っこを切ると、切断面から細胞が傷つき、水分が抜けやすくなります。その結果、もやし本来のシャキシャキ感や鮮度が落ちやすくなります。 - 栄養と日持ちに影響
もやしの根っこ(ひげ)にも、豊富な栄養が含まれています。切ってしまうと、せっかく詰まっている栄養素も一緒に失われ、日持ちも悪くなりがちです。 - 鮮度のチェックがしにくくなる
根っこは、もやしの鮮度のバロメーターとしても重要です。時間が経つと、まず根っこから変色していきます。根っこがないと、初期段階での鮮度低下は、発見しづらくなります。
当社の「ブラックマッペもやし」は、日持ちや栄養を重視し、あえて根っこを残す方針を採っています。
一方で、根っこが大きすぎる「大豆もやし」は、家庭ごみの負担をなるべく減らすために、根っこのほとんどを取り除いて販売しています。
根っこの有無にそれぞれの利点がありますので、用途やシーンに合わせて、賢く使い分けると良いでしょう。
Q4: もやしはなぜこんなに安いの?
結論:収穫までのスピードが圧倒的に早いから!
もやしは、種類や製法によりますが、たった5〜8日で収穫できます。
つまり、種をまいてから1週間もしないうちに商品として出荷されるんです。
一方、一般的な野菜はどうでしょう?
- キャベツは種まきから収穫まで約3〜4か月
- 玉ねぎに至っては半年以上かかることも
こうして比べると、もやしは圧倒的に成長が早い野菜だということがわかりますよね。
そのぶん、生産コストが抑えられるため、お手頃な価格で提供できるんです。
もちろん、キャベツや玉ねぎも、生産者さんが手間ひまかけて育てているからこそ、あの価格で買えるわけで、どちらにせよ野菜って本当にありがたい食べ物。
でも、「もやしが安いのは何か訳があるんじゃ…?」と不安に思う必要はありません。
単純に、育つのが早いからなんです。
Q5: でも、もやし屋がピンチだってよく聞くけど…
結論:ピンチなのは、事実です。
Q4で触れたとおり、もやしの生産コストは他と比べて圧倒的に安いのですが、
保管する冷蔵庫の電気代や、それを運ぶ運送コスト(特にガソリン・軽油代!)においては、
ほかの生産者さんと変わらず、とても苦しい状況です。
(これはたとえ話であり、実際の価格とは異なります)
たとえば、もやしが1パック100円であったとしましょう。
このとき、いちごや牛肉が1パック500円だったとしても、牛肉を運ぶドライバーさんの給料が、もやし配送時の5倍になるわけではないのは、おわかりいただけると思います。
逆に、一回の納品にかかる軽油代が、牛肉の場合に500円だったとして、
「もやしを運んだトラックだけ、5分の1の、100円分しか軽油が減らない」なんてことはありません。
同様に、安い商品を冷やす冷蔵庫だからといって、電気代まで安いわけもなく…。
ランニングコストは他業種と同じようにかかるけど、売り物は低価格。
言い換えると、もやしは、低価格商品であるがゆえに、付帯コストを回収しづらいというハンデをもつのです。
事実、日本全国に存在するもやし製造業は年々減少の一途を辿っています。
冷蔵庫の電気代や、トラックの車検代のために、いったい何袋のもやしを売る必要があることか…。
ましてや、老朽化していく設備を買い替えるなんてことになったら、もやしの場合、途方もない袋数になります。
それをあきらめて、設備更新のタイミングで閉業される方も、かなりの数にのぼります。
これが、もやし屋がピンチであるという実情です。
厳しい情勢下ではございますが、当社はなんとか踏ん張りつつ、鹿児島県湧水町から、もやしのお届けを継続しています。
卸のご相談・お取引のご検討は、商談のご予約ページから承っています。
まとめ
- もやしの約95%は水分です。ただし残りの中身には、食物繊維・カリウム・葉酸・ビタミンCなどが、15kcalという低さに対してしっかり詰まっています(食品成分表より)。
- 短時間の加熱調理なら、もやしの栄養はしっかりキープできるため、手軽に健康サポートが可能です。
- おすすめの加熱方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もどうぞ。
- もやしの根っこは、見た目のため切られることもありますが、栄養や鮮度を保つ上で大切な役割を果たしています。
- もやしはわずか5〜8日で収穫できるため、生産コストは低いものの、冷蔵・運搬などのランニングコストが回収しにくいという課題も抱えています。
もやしは家庭で気軽に取り入れられる頼もしい食材ですが、報道されているとおり、その内側では、なかなか苦労も絶えません。
この記事を通じて、もやしについて、より一層の理解と関心を持っていただければ幸いです。
お知らせ:製麺事業30周年のクラウドファンディングを実施中です
わが社の麺を打ってきた木製の麺棒のうち、役目を終えたものを、
30周年記念輪切りにして記念メダルにしました。
焼き刻印とシリアルナンバーを入れた200枚限定です。
2026年10月31日まで、クラウドファンディングにて受付しています。



