ふるさと納税の麺に関するページにも記載していますが、
当社のラーメン用生麺の特徴は「低加水なのにもちもち」です。
たまに、それは妙な話ではないか、と言われます。
感覚的にはおっしゃるとおりで、加水率が低ければ硬めに仕上がる、
というのが一般的な理解だと思います。
ただ、現場の感覚としてはあまりピンときません。
加水率という数字が、そこまで麺の状態とイコールでつながっているとは思えないからです。
わが社は製麺事業を30年続けておりますが、今までずっと、
理屈をうまく分解できないまま「実際にそうなんです」とご説明してきました。
ただ、改めて調べてみたところ、各方面から根拠らしい数字が出てきましたので、
このたび、本コラムとして残すことにいたしました。
なお、これは、あくまで当社の経験則と、データとして探せる情報を照らし合わせた記録であり、
機械設備・小麦粉の環境などが異なる他の製麺所さんに適用可能な考え方ではないことをご了承のうえでご覧ください。
いわゆる「加水率」は毎回変えています
重要な前提として、当社は小麦粉に混ぜるかんすい水溶液の量を毎回同じにしていません。
(かんすい水溶液と書いていますが、中身の大部分は水です。だからこの量を増やすというのは、要するに加水率を上げるということになります。
ただし、かんすいそのものの働きはまた別の話で、炭酸カリウムはむしろ麺を締める方向に働くとされています。念のため。)
なぜ毎回変えるのかといえば、止めようのない条件があるからです。
ひとつは気温です。暑い時期に水を入れすぎると生地が緩みます。
熟成も、温度が高いほど早く進むので、夏はこの二つが必要以上の相乗効果を持ってしまいます。
だから夏はかんすい水溶液の量を減らします。冬は逆です。
もうひとつはミキサー温度です。
これは季節と関係なく、毎日起きます。
繰り返し回しているとミキサー自体が温まってくるため、
朝一番と昼過ぎで、同じ配合を貫くと、生地のしっとり感が明らかに違ってきます。
よって、非常に微量ずつ水溶液を減らすか、ミキサーを一旦休ませて温度を下げていくことになります。
これは製パンの世界だと「摩擦係数」という名前がついていて、機械で捏ねると生地の温度が5〜10℃ほど上がる、という目安で扱われています。
それを見込んで仕込み水の温度を逆算する計算式もあるそうです。うちがやっているのは、それを数式ではなく手で合わせているようなものだと思います。
粉は、置いてある間に水を吸ったり吐いたりする
もう一つの要因が、小麦粉そのものです。
小麦粉は非常に湿気を吸いやすい上に、(わが社の場合は少なくとも、)紙袋で納品されます。
(スーパーで買える1kgの小麦粉袋の巨大版、と思っていただければわかりやすいかと思います)
よって、梅雨の時期に納品された粉は、積み下ろしなどの過程でどうしても水分を余計に持つことになります。
当社のような規模では、これは避けようがありません。
逆に、冬などの非常に乾燥した時期は、粉もパサパサです。
袋を開ければ外気に触れますし、計量のたびにも触れます。
これは、実際に製粉会社が数字を公開しています。
木下製粉さんの解説によると、挽きたての小麦粉の水分は14.0〜14.5%。
ところが20℃での平衡水分は、湿度40%なら約12%、60%で約14%、80%になると約17%だそうです。
日本の一年は、だいたいこの湿度の間を行き来します。
つまり粉が抱えている水分は、5ポイントほど変動することになります。
同じ記事に、うどんの例で、
粉の水分が2%減ると、加水率50%が実質48%相当になり、生地が目に見えて硬くなる、と記載されています。
加水率という数字が、数えていないもの
ここで加水率の話になります。
加水率は一般的に「加えた水の量 ÷ 小麦粉の重量」で出します。
(※「水の量」の計算方式には複数の考え方があるそうです。)
ここで非常に重要なことですが、この式は、粉がもともと持っている水を計算対象に含んでいません。
だから粉の水分が12%のときと17%のときでは、同じ「加水率30%」と書いてあっても、生地の中にある水の量は大きく異なります。
当社が、加水率を「固く守るべきレシピ」ではなく「環境による変動値を吸収するための調整弁」だと思っているのは、このためです。
固定すべきなのは数字側ではなく、作り出される麺のほうだろうと考えています。
「加」水率部分だけを見ているわけではない
そういうわけで、「低加水なのにもちもち」はおそらく矛盾ではありません。
麺の仕上がりは、熟成速度や摩擦係数、小麦粉自体の保有する水分量などによって総合的に決まるものであり、「加」水率という数字は「最も影響しやすい要因だが、あくまでも複数ある要因のうちのひとつ」、と考えているからです。
食感を決めているのは水の量だけではありません。
かんすいのアルカリ、たんぱくを補う配合、熟成のかけ方、麺帯の圧延と複合、切刃の番手や、断面の形。
更に、(これは当社で変えられるものではありませんが)厨房での茹で時間。
お客様が食べる頃には、全部が合わさって出てきます。
低加水には低加水の理由もあります。
細い麺は加水を上げすぎると、麺線どうしがくっついて離れなくなる。
茹でる前にほぐれない麺は、食感がどれだけ良くても厨房で使ってもらえません。
どうやって加水の量を決めているのか
冷やした水溶液でミキサーの熱を打ち消す、という手も使います。
製パンの計算式と考え方は同じです。
ただ、これが一発で決まりません。摩擦係数そのものが、ミキサーがどの程度温まっているのかで毎回変わるからです。
冷暖房の影響、作業者の休憩中に下がったミキサーの温度も影響しますし、そもそも水溶液自体を、狙った温度に器用に冷やすこと自体が難しい。
冷やしすぎれば、今度は麺が固くなります。
現状では、無数のトライ&エラーの中で最も「これだ」と思える式に寄せて調整しています。
行き当たりばったりに見えるかもしれませんが、計算で追いきれないところを実物で埋めている、というつもりでいます。
熟成については、当社の場合、常温の短時間熟成を行っています。冷蔵で長く寝かせることはしていません。当社の配合の場合、一般的にも室温20℃前後で30分から1時間ほどが標準的とされていて、その流儀に則った形となります。
書きながら気づいたこと
データを並べるうちに、ひとつ興味深いことに気づきました。
当社が経験則で決めてきた調整の幅は、麺一種類あたり、加水率にすると4ポイントほどです。
先ほどの製粉会社さまのデータによると、粉の水分が動く幅は年間で5ポイントほどの振れ幅でした。
打ち消そうとしているものと、打ち消すために当社が動かしている加水量が、ほぼ同じ大きさでした。
偶然なのか、長年やっているうちに勝手に合ってきたのかは分かりません。
気温とミキサーの温度と粉の水分の、どれがどれだけ影響しているのかを分けるには、おそらく温度計測ひとつでも、専門の機器や大変複雑な力学上の計算式が必要になると思われ、現時点では行っておりません。(いち製麺所の手に余る、大掛かりな、別の研究になるかと思われます。)
もし専門家のお力をお借りして、これらの要素を科学的に解明できる日があれば、また改めてコラムを書きたいと思います。
お知らせ:製麺事業30周年のクラウドファンディングを実施中です
わが社の麺を打ってきた木製の麺棒のうち、役目を終えたものを、
30周年記念輪切りにして記念メダルにしました。
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2026年10月31日まで、クラウドファンディングにて受付しています。

この記事は有限会社霧島製萌(鹿児島県姶良郡湧水町)の製麺現場での運用にもとづく記録です。
参考:木下製粉「小麦粉に含まれる水分」
大和製作所「ラーメンの具-かん水など」
「美味しいラーメンの麺生地を作るために1回目の熟成」
King Arthur Baking「Determining the friction factor in baking」
